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爺さんの被害妄想

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生前の爺さんの話。
91歳で亡くなった爺さんなんだが,
晩年は軽い認知症を発症していた。
ある時,爺さんは,郵便貯金の通帳を私に見せながら
「貯金が不正に引き出されているんや。」と訴えかけてきた。
私は,島の小さな郵便局で爺さんが自分で引き出したのではないかと
話したのだが,爺さんは,インチキされたと一点張り。
どうしても爺さんの被害妄想が治まらないので,
私と爺さんは,島にある小さな特定郵便局に真相を確かめに向かった。
郵便局員は,懇切丁寧に説明してくれた。
小さな郵便局で,何十年来の付き合いであることから,
爺さんが解約しに来たことがあったという情報まで明らかになった。
私は,爺さんの懸念を払拭しようと,さらに質問を続けていた。
すると,隣で聞いていた爺さんは,困った顔を見せながら
「そこまで言ってくれてるんや。もういいじゃないか。」
と言って,俺の腕を引っ張った。
まるで,私が執拗にクレームを付けているかのような爺さんの対応に
梯子を外された格好になったのだが,不本意ながら,
爺さんが納得したのならばよかろうと思い,郵便局を後にした。
手押し車を押す爺さんに対し,
私は「もう十分に納得したでしょ。爺さんの勘違いなんだよ。」と言った。
すると,爺さんは,にやりと笑いながら,
「ちょっとだけ。」と答えた。
爺さんの回答に,思わず笑ってしまった。
人前では格好つける迷惑爺さんであった。

2013年6月14日

五十川剛俊